平成10年
国民生活白書
「中年」 その不安と希望
平成10年12月
経済企画庁
第I部 人口構成の変化と中年世代
第5章 中年世代と家族・家庭
(1970年代半ばから上昇を続けた家計の教育費負担)
家計の教育費負担を家計(勤労者世帯)の消費支出に占める教育費の割合でみると,1970年代初めまでは低下傾向にあったが,その後上昇を続けている。
また,合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に生む子供の数)は,74年にほぼ人口を増減なく保つために必要な水準(2.08)を下回って以来,低下しており,子供1人当たりの教育費は年々大きくなっている可能性がある。
一方,エンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合)は,一貫して低下してきている。これは,主に所得水準の上昇に伴うものとみられるが,子供の数が減少してきたことによる面もある。子供の食料費負担が軽減された分を子供の教育費に回わしている可能性もうかがわれる(第I-5-28図)。
この点をアメリカと比較してみると,教育費の負担(教育費/消費支出)はアメリカ2.3%(95年)に対して日本が4.7%(95年)と,日本の方が重い。
(中年世代に重い教育費負担)
教育費負担は特に,中年世代を含む35〜54歳で重い(第I-5-29図)。当庁「選好度調査」(98年)の「あなたのご家庭ではお子さん全員の教育費はあなたの家の家計状況からみていかかでしょうか」という間に対して,40代で68.7%,50代で71.8%の人が「苦しい」と答えている。
また,子供の就学状況別にみると,子供が成長するにつれて,「苦しい」と答える親の割合が増加しており,第一子が大学生・大学院生の親では,8割を超える人が「苦しい」と答えている。
(増えてきた補助教育費)
前述の第I-5-28図によると,教育費の中でも,学習塾,家庭教師,けいこごと等に要した費用である補助教育費の負担が高まっている。これは,塾やけいこごとなど学校外での活動の高さを反映している。例えば,文部省「学習塾等に関する実態調査」(93年)によると,小学生で76.9%,中学生で28.3%の子供がけいこごとに通っている。また,けいこごとも多様化しており,ピアノや習字に加えて,英会話,水泳,バレエ,スケート,絵画などに広がっている。
(低学年の子供でも塾通いが増加)
塾通いが増加している。塾に通っている手供の比率は,85年から93年の間に,中学生では44.5%から59.5%へ,小学生では16.5%から23.6%へと高まっている。特に,小学生についてみると,低学年を含めて塾通いをする子供が増えており,例えば,小学一年生では85年から93年の間に6.2%から12.1%へと増加している(文部省「学習塾等に関する実態調査」(93年))。
また,当庁「選好度調査」(92年)によると,塾に通う理由としては親の60%以上が「有名校に入るため」と答えている一方,「選好度調査」(98年)によると,「子供が低年齢化するほど親の意向により塾など学校外で学習を行っていることについてどう思いますか」という間に対して,中年世代では40代で83.8%,50代で87.9%の人が,「問題である」または「好ましくない」と答えている。つまり,親は低年齢から塾に通うことは子供にとって「問題がある」と考えているにもかかわらず,受験競争が激しいために,塾に子供を通わせている状況がうかがわれる。
今後,大学入学年齢である18歳の人口が急速に減少していくことにより,受験競争が沈静化していく可能性もあるにもかかわらず,低学年でも塾通いが増加している。このような受験競争に対する親の姿勢が,全体として教育費をつり上げている可能性も考えられよう。子供1人当たりの学習塾費用(小・中学生の平均)をみると,85年から93年の8年間で,9,200円から15,300円に上昇している(文部省「児童・生徒の学校外学習活動に関する実態調査」(85年),「学習塾等に関する実態調査」(93年))。
(大学学費のための負担)
子供の大学進学への期待は高まっている可能性がある。大学進学のためには,多額の費用がかかり,家計の負担は軽くない。例えば,子供を下宿させながら大学に通わせている場合,国立大学で年間147万円,私立大学では219万円の費用がかかる。特に低所得層の家計にとって,その負担は重くなっている。45〜59歳の家計の教育費(調査期間の関係上入学金は含まれていない)の負担をみると,子供を自宅から大学に通わせている家庭で,所得が平均未満の家庭では,教育費の負担が極めて重く,特に私立大学に通わせている家計での可処分所得に占める教育費は,およそ27%にのぼっている。また,これらの家計では,消費性向も120%前後と所得を超えた消費を行っており,その分,貯蓄を取り崩して教育費をまかなっている可能性がある(第I-5-30表)。こうした家庭では,老後のための貯蓄をする余裕がないということでもある。
(高等教育のための費用は親が負担する日本)
大学,短大,専修学校(専門課程)を含めた進学率をみると,98年では68.3%である。そのような中,日本においては,進学のための費用を親に依存する割合が高い。当庁「選考度調査」(98年)によると,「親は子供の経済的な面倒をいつまで見るのか」という間に対して,「大学を出るまで」「就職をするまで」と答えた親は51.2%にのぼり,さらに「結婚するまで」「結婚して生活が安定するまで」と社会に出るまで面倒をみると答えた親は19.0%であり,合わせて70.2%となっている。子供の高等教育についても親が負担するという状態では,子供の高等教育の機会が親の所得や資産によって左右される可能性があり,所得の高くない家計では教育費負担は重い。
一方,アメリカでは,経済的に親にあまり依存せず,奨学金や学生ローンを利用して大学に進学する子供も多いといわれている。なお,前述の第I-5-29図により,日本とアメリカの中年世代での教育費負担をみると,日本が7.8%に対してアメリカが2.4%と,アメリカではかなり軽いものになっている。日本においても家計の教育費負担を軽減し,子供の高等教育の機会が親の経済状況に左右されずにすむような環境を整えていくことが望まれる。
(少子化の中での高等教育機関の役割)
親がこのような重い教育費を負担するのは,子供が高等教育を受け,「よりよい」就業・稼得機会を得るための,ある意味での「投資」としてとらえている面もあるためとみられる。実際に,第2章で述べたように,大企業において20代後半の学歴間の賃金格差は広がっており,大学進学の「投資効果」は下がっていない可能性がある。
今後,一層の少子化を反映して,大学学齢期の人口が減少していくことが見込まれている。仮に大学への進学率が上昇したとしても,いままでのような就業・稼得機会が維持されないならば,親にとって教育費を払うことは「投資」というよりもむしろ「負担」として強く感じられることになることを意味しよう。このような中,大学など高等教育機関には,教育の内容・方法の一層の充実を図り,学生の質の維持向上に努めることが求められている。