平成7年

国民生活白書

戦後50年の自分史 多様で豊かな生き方を求めて 

平成7年11月14日

経済企画庁


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第I部 戦後50年:豊かさと行動様式,意識の変化

第1章 日本人の「生活の豊かさ」の現状

第2節 戦後50年における日本経済社会の到達点

本節では,日本社会の現状を国際的比較と意識調査により考察し,豊かな生活を実現するための課題を探る。

1. 「生活の豊かさ」の現状と国際比較

(内外価格差)

日本国民が,日本の経済力に見合うだけの豊かさが実感できない要因の一つとして,内外価格差の問題がある。

内外価格差を過去に遡って推計すると,この問題が発生したのは1980年代後半以降のことだとわかる (第I-1-42図)。1ドル360円の日本が貧しい時代,アメリカの物価が高くて驚いたという話をきくが,60年代まで日本の物価はアメリカの半分であった。ところが今や内外価格差は,アメリカの1.5倍程度となっている。

ドルで表示した日米の94年物価水準を費目別に比較をすると,政府補助の度合いの大きい医療・保健を除くすべての費目でアメリカの水準を大きく上回っている (第I-1-43図)。特に,食料・飲料,住宅建築,土木工事,非電気機器が高くなっている。

衣・食・住の基礎的消費を構成する費目が高く,さらに,経済的に豊かになるとともに需要が高まる教育・余暇および文化等も高くなっている。住宅,社会資本の分野の遅れも,土木工事,住宅建築の高さが,その要因のひとつとして考えられる。

先にみたように,ドル建てで換算した日本の一人当たり国民所得は,主要国中最も高い水準にある。しかし,内外価格差を反映した消費財・消費サービス購買力平価で換算した一人当たり民間最終消費支出でみると,その結果は異なる。日本は,94年でアメリカ,ドイツなどより低い水準となっている (第I-1-44図)。為替レートは,長期的な傾向としては貿易財の生産性で決定されるのに対し,国民の消費水準は国内の消費財・消費サービスの生産性に依存するからである。

(社会資本の整備)

社会資本の整備状況を下水道普及率,便所水洗化率,水道普及率,道路舗装率の4つの指標でみると,社会資本の整備状況は着実に改善している(第I-1-45図)。しかし,日本の歴史的,地理的条件の違いを考慮する必要はあるものの,十分な水準には至っていない。

水道普及率は,95.3%とほぼ普及しているが,道路舗装率は71.9%である。

下水道普及率は,上昇傾向にあり,94年度に初めて50%を超えた。ただし,便所水洗化率は75.6%の水準にある。

日本の社会資本の現状を国際的にみると,イギリスでは舗装されたものを道路とするなど,国により指標の定義が異なり,単純に比較することはできないものの,下水道普及率,便所水洗化率は,主要国の中で低い水準にある(第I-1-46表)。また,都市においても一戸建て住宅が多く,神社仏閣の境内地がオープンスペースの不足を多少緩和しているが,東京の一人当たり都市公園面積は主要国中最低の水準にある。

このように社会資本の整備が遅れている原因として,歴史的,地理的条件の相違に加え,先に述べた内外価格差の問題もひとつの要因としてあげられる。

国内総生産に占める公共投資比率をみると,日本は他国に比較して,70年代前半以降,高い割合を占めている (第I-1-47図)。しかし,後述する地価の高さに加え,地形,地質,地震の有無などの自然条件,他の産業などと同様,内外価格差の問題に直面していることなどが社会資本の建設総額を高くしており,多額の公共投資にもかかわらず社会資本整備が遅れている原因のひとつとなっている。また,道路,港湾などの社会資本整備の遅れが,物流コストを高めるなど,内外価格差を拡大させる要因ともなっている。

(住宅環境)

持ち家率は,ドイツ,フランスなどよりも高い水準にあるものの,住宅一人当たり床面積は主要国の中で最低の水準にあり,平均世帯人員も多い(第I-1-48表)。

住宅地地価についてみると,東京の地価が最も高く,次いで大阪が高い水準にあり,主要国都市と比較して約10倍以上の差がある。地価の高さは,住宅価格の上昇にもつながり,日本の住宅価格の年収倍率は,日米の住宅建築の内外価格差をみてもわかるように,国際的にみてかなり高い。

(労働時間)

製造業の年間総実労働時間をみると,週休二日制の普及などによる労働時間の短縮によって,ドイツ,フランス,イギリスの水準にはまだ及ばないものの,週40時間労働制への以降などにより改善されつつある (第I-1-49表)。1993年の日本の製造業年間総実労働時間は,日本の景気後退の影響もあり1,966時間まで減少し,景気拡大などにより増加したアメリカの労働時間を下回った。

年間休日等の日数を比較すると,日本は年次有給休暇で11日と主要国中低いの水準にあり,米国と比べて8日,ドイツとは18日と大きな差がある。

2. 国民の生活満足度の現状

これまでみてきたように,日本社会は,経済的には順調な成長を遂げ,国民の所得水準は世界でも有数の高い水準にあるものの,住宅,社会資本などの分野は,今なお遅れている状況にある。この中で,国民の意識にはどのような変化があったのだろうか。

総理府「国民生活に関する世論調査」より,まず,「お宅の生活の程度は,世間一般からみてどの程度と思うか」という質問に対する回答をみると,「中流」と答える者が1967年に89.2%となった後,現在までほぼ9割を維持している(第I-1-50図)。この間,所得の上昇は目覚ましかったにもかかわらず,ほとんどの国民が中流意識を持ち,変化に乏しいと感じているという結果は,国民全体についても所得が向上し,自らの相対的な位置が変わらなかったからである,とも解釈できるが,国民全体が高度成長の成果を享受できた,という意味では評価すべきであろう。

次に,同調査より「お宅の生活は去年の今頃と比べて向上していると思うか」という質問に対する回答をみてみよう。わかりやすくするため,「向上している」と答えた者の割合から「低下している」と答えた者の割合を引いた値の推移でみると,第一次石油危機後の74年にマイナスに転じ,その後マイナスで推移している (第I-1-51図)。

ところが,同調査により国民の生活満足度について,「満足」と答えた者から「不満足」と答えた者を引いた値の推移をみると,第一次石油危機前後に低下したが,その後上昇傾向に転じている (第I-1-52図)。高度成長期ほどの所得の増加はなくても,生活全般をみれば満足の度合いは低いわけではない。

また,総務庁「世界の青年との比較からみた日本の青年」より満足度の国際比較をみると,全般的に高くはない(第I-1-53図)。職場生活については特に低く,家庭生活の満足度も低い。ただし,社会についての満足度はそれほど低くはない。

戦後,日本は経済面では輝かしい成果を遂げた。ドル建ての一人当たり国民所得でみれば,アメリカ以上の水準にある。しかし,意識の面からみると,相対的な向上感は乏しく,1974年の安定成長期以降は経済面での不満が増えてきている。生活の満足度は国際的にみて低い水準にあるものの,傾向としては改善してきている。日本の経済成長に見合っただけの豊かさや満足感はいまだ多くの国民が感じていないようである。

ドル建てでの国民所得と,生活のために必要な財・サービスの実質購買力との格差は,内外価格差の問題であって,これは国内産業の生産性を向上させることによって縮小されるべき問題である。このことは,既に1967年度経済白書において,生活の向上には能率の向上が必要と指摘されているとおりであり,本年度経済白書においても,規制緩和,商慣行などの是正により内外価格差を是正・縮小すべきことが分析されている。また,社会資本の整備についてもコストを削減し,効率を向上させることなどが必要である。

本白書では,このような経済分析に重点をおくよりも,むしろ,客観的な生活水準の上昇にもかかわらず,それを認識できない意識に注目し,職場,家庭,社会のそれぞれにおいて,現実と意識の変化を考察することとする。